フランス映画祭2022横浜、上映作品「フルタイム」のエリック・グラヴィル監督にインタビュー

12月1日から4日にかけてフランス映画祭2022横浜が開催された。横浜・みなとみらい21地区の3つの会場で、長編10作品、および短編6作品をまとめた「フランスのストップモーション・アニメーションの世界」を上映。来日した監督と来場者のQ&Aなども行われ、会場は活気に満ちていた。

12月3日に上映された「フルタイム(À PLEIN TEMPS)」は、困難な状況の下で、仕事と子育てを必死にこなすシングルマザーの姿がリアルにそして繊細に描かれた佳作。昨年、第78回ヴェネツィア国際映画祭のオリゾンティ部門で、監督賞と主演女優賞を受賞している。
映画祭を機会に来日した本作の監督エリック・グラヴィルEric Gravel氏に、「フルタイム」上映の前日にお話を伺った。

「フルタイム」がフランス映画祭の上映作品に選ばれたことへの感想をお聞かせください。

私はここ一年ほどの間に、複数の映画祭に参加し、世界の至るところでこの作品を上映しました。ただ、世界を巡る旅はこの映画祭で終わりにするつもりなので、映画大国である、ここ日本で、最後の上映の機会を持てたことをとても、嬉しく思っています。

日本にいらっしゃるのは初めてですか?どのような印象を持たれましたか?

日本に来たのは初めてで、ただ2日前に着いたばかりなので、まだこの周辺を少し歩いただけです。日本映画はよく見ていて、黒澤明監督はもちろん、現代では是枝裕和監督の作品が好きです。最近では、濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』もよかったですね。私は、カナダのケベック出身で、映画の勉強はケベックで始めたのですが、映画学科の学生は皆、小津安二郎監督の作品を見ていましたよ。

「フルタイム」を興味深く拝見しました。作品テーマはどのように決められたのですか?

私は10年ほど前から、フランスブルゴーニュ地方の田舎町に住んでいます。電車でパリまで1時間半ほどかかるのですが、そこから毎日仕事のためにパリまで通う人たちがいることに驚きました。その事実をメディアが取り上げないことに気づき、これを題材に映画を撮ろうと考えたのです。ただ、それだけではテーマとして弱いので、大規模ストのような問題に直面したら、その人たちの日常生活がどういう影響を受けるのか?特に一人親など社会的に弱い立場にある人の生活はどうなるのだろうか?それを描きたいと思いました。
シナリオを書き始めた後に、黄色いベスト運動が起こり、多くの女性がデモに参加し、その中にはシングルマザーたちもいて、経済的問題を抱えていることが分かり、このテーマを選んだことに間違いはなかったと確信が持てました。

まさに主人公、シングルマザーのジュリーは、遠距離通勤、経済的問題をはじめ、色々な困難に遭遇しながら、必死に一人で切り抜けようとします。それを演じるロール・カラミーが、とても印象的です。

ロール・カラミーはこれまで主役を演じた経験がなかったのですが、コメディからドラマチックなものまで幅広い演技ができる素晴らしい女優だと感じました。
この主人公はとても気が強く、頑なところがありますが、それは彼女が置かれている状況がそうさせているのです。観客がそれを分かり、共感できるような人物を彼女は見事に演じてくれました。

日本でも仕事と育児を両立させている女性、シングルマザーが大勢います。自分の身に置き換えて見ながら共感できる作品だと思います。最後に、日本のフランス映画ファンに向けて、何かメッセージをいただけますか?

私は人に何かメッセージを伝えるというのは苦手で、どちらかというと自問自答していることが多い人間だと思います。私にとって、映画を撮ることは、人にメッセージを伝えたり、答えを示したりするのではなく、自分自身に問いかける行為なのです。私は答えを持っておらず、多くの疑問を持っており、それを人々と分かち合いたいと考えています。上映後に来場者とのQ &Aの機会が設けられますが、そこでも、ぜひ、皆さんの意見を聞き、語り合いたいですね。

たくさんの来場者が作品の感想などを話してくれるといいですね。次回作の構想はすでにお持ちでしょうか?

はい、今、シナリオを書き始めているところです。「フルタイム」は一人の主人公に焦点を当てた作品でしたが、次回作は複数の登場人物の物語が絡み合う、ロバート・アルトマン監督の映画のようなコラール(合唱)のイメージを持つ作品になると思います。

それは楽しみですね。インタビューにご協力いただき、ありがとうございました。


(ウエスティンホテル横浜にてインタビュー)

「フルタイム(À PLEIN TEMPS)」
主人公ジュリーは幼い子ども二人と田舎町で暮らすシングルマザー。パリまで電車で通い、高級ホテルでハウスキーピングとして働いている。かつてのキャリアを活かせる仕事の求人を見つけ、面接にこぎつけた矢先に大規模ストライキが始まり、交通機関が麻痺してしまう。それによって長距離通勤、子どもの託児、職場での人間関係、経済的問題などが顕になり、ギリギリのバランスで保たれていたジュリーの生活がぐらつき始める・・。

監督・脚本:エリック・グラヴィル
制作:2021年フランス
上映時間:87分
(日本公開は未定)

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