高度専門職向けビザでフランスに移住した

写真家・アーティスト 澄毅さん

澄毅さんは、高度の専門技能を持った人を対象とするコンペタンス・エ・タランCompétences et talents(能力・才能)ビザを取得して、2013年8月に渡仏。アーティストとして定期的にパリでグループ展に参加したり、個展を開くなどの活動を行っている。

フランスに住もうと考えられたきっかけは?

2012年に日本で写真集を出したのですが、その出版社がパリのアートフェアに出展することになり、私もパリを訪れました。そこで、有名ブランドであるアニエス・ベーの関係者の方が私の作品を気に入って買ってくれたのです。その時は、アニエス・ベーというブランドも知らなかったのですが(笑)。
それで、この国では写真をアート作品とみなして、有名か無名かといった”箔”ではなく、自分の審美眼で判断して、良いと思ったらちゃんと作品を購入する、という事実に衝撃を受けました。それでフランスに飛び込んでみたいと考えたのです。

フランスにはどのようなビザで入国されたのですか?

当時は、コンペタンス・エ・タランCompétences et talents(能力・才能)というビザがあって、フランスに利益をもたらす高度専門職者向けのビザとされていました。芸術分野で仕事に従事している、つまりアーティストも職業カテゴリーに入っていたのです。私はビザ審査のために作品のプレゼン用資料をフランス語で用意しました。その頃はフランス語が一言もできなかったので(大げさではなく、アン・ドゥ・トロワの次が言えませんでした)翻訳を頼みました。広尾のフランス大使館で申請しましたのですが、いつ結果が出るか、それすら分からなくて不安でしたが、3ヶ月後くらいに無事にビザが取れました。

また、このビザは配偶者にも労働許可付きのビザがおりるので、イラストレーターでデザイナーの妻もフランスで働くことができるようになりました。

その後このビザはなくなり、パスポート・タランPasseport Talent(才能パスポート)というビザに変わったので、2016年にこちらのビザに切り替えました。

最近の活動内容について具体的に教えていただけますか?

作品作りが中心の生活で、今、新しい写真集を出す準備中です。それからパリ在住の70代の人形作家のドキュメンタリームービーを撮っています。また、パリで写真と絵を教えています。スカイプを使った授業も行っているので、日本に住んでいる生徒もいますよ。
もう一つ、今年の6月小説家島本理生さんの『匿名者のためのスピカ』が文庫化された時に、私の作品を表紙に使っていただきました。その2ヶ月後に島本さんが直木賞を受賞されたのは、嬉しかったです。

匿名者のためのスピカ (祥伝社文庫)

お忙しそうですね。パリに来てからの5年間を振り返っていかがですか?

フランス語が全くできない状態で渡仏して痛感しましたが、私は語学の才能はありません。才能を全てビジュアル表現に捧げてしまったような人間です。しかも生活の糧を稼ぎつつ創作に忙しく語学の勉強をする時間が取れなかったので、今だにフランス語は仕事のネゴシエーションがうまくできないレベルです。それでもこうやって生活しているのは奇跡とも言えますね(笑)。
フランスという国は高度の専門職者、つまり他の人にはない才能を持っている人が生きやすい国だと思います。それさえあれば、フランス語が話せない外国人でも受け入れられる。もちろん、話せる方がチャンスは何倍も大きくなることは確実ですが、それでも言葉が喋れない中でフランスに飛び込んだことは後悔していません。意外と思われるかもしれませんがフランスは歴史的にも外国人が文化を作り上げて来た国と言えるかもしれません。フランス料理の基礎はイタリアからフランスに嫁いだお姫様がもたらしたとされていますし、アートの世界でいえばピカソやカンディンスキー、さらに藤田嗣治が代表的な例でしょうね。

それからパリは自分自身を見つめ直す機会を与えてくれました。日本にいたら、日々の(こまごまとした)仕事に忙殺されるし、アートの世界でもなんとなくの同調圧力の雰囲気があるので、ここまで自分独自の表現を突き詰めることはできなかったと思います。

プライベートでは一昨年、子どもが生まれたことで生活が劇的に変わりました。子育てに時間を取られるし、落ち着いて創作ができるのは子どもが眠っている夜だけです。でも、子どもが日々成長していく姿を見ることは大きな楽しみですね。

今後のヴィジョンなどは?

ヴィジョンというか、40歳を目前に転換期が訪れているような気がします。漠然としているのですが、全然知り合いもなく、根無しの状態でパリに飛び込みましたが、もう一度何かそういうことをするなら40歳前かなと考えています。今頑張れば、人生がいい方向に進む、という予感です。
いずれは日本に帰る予定ですが、もちろん作品作りは続けながら、私は中学・高校の教員免許を持っていますし、アートを教える仕事もしたいと考えています。

作品 orizuru(折鶴)
作品lumiere and slit(光とスリット)

http://www.takeshisumi.com/

2018年11月3日土曜日に、パリのCité international des arts (18, rue de l’Hôtel de Ville, 75004)でイベントPassé – Lumière – Futurを行う
https://www.facebook.com/events/1121912474629685/

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